■■1章「車体」(服部 守成)

●p.8
 「1931年度設計のスハネ30形式・・・以降の車両は全鋼製構体として製作」とありますが、80系湘南電車の全金属製車両は、1957年製作の300台からですが、客車と電車の20年以上のギャップは、如何なる理由によるものでしょうか?

<回答>
 第1章では標準仕様における客車の構体材質の変遷を時系列的に記述しましたが、標準仕様としては電車もほぼ同じ様な変遷をたどっております。1924(大13)年から国鉄モハ10形式が木製構体で量産されました。1926(昭1)年製の国鉄モハ30形式は半鋼製構体で、1932(昭7)年製の国鉄モハ40形式からは車長20mの丸屋根鋼製構体で製作されています。その他、1927(昭2)年に開業した東京地下鉄1000形電車では火災防止対策のために全鋼製構体で製作されています。
 しかし、1937(昭12)年以降は戦時色が強まり、戦時設計の採用や客車の製作打ち切りが有りました。1939(昭14)年発行の書籍には客車の屋根構造として木製丸屋根構造図が記載されていますので、これが戦時設計の屋根構造であったと思われます。
 1944(昭19)年に誕生した63系電車は当然戦時設計で製作されました。戦後も当時の資材難と緊急の増備要請に対して、標準設計に移行する余裕がなく半鋼製構体のまま製作されました。それと同様な理由で当初の80系湘南電車も半鋼製で設計され製作され続けましたが、1951(昭26)年の63系電車の火災事故と車両近代化の方針を受けて1957(昭32)から全鋼製車両に変更されました。

●p.17
 「車両の外形形状および寸法は車両限界・建築限界を超えないように・・・」とありますが、「車両の外形形状および寸法は車両限界を超えないように・・・」とすべきではないでしょうか。建築限界は、車両の走行に支障をきたさないか、車両の動揺、軌道狂いその他を考慮して、車両限界外に余裕空間をもって沿線構造物を設置するために決められたもので、いかなる構造物もこれを侵してその内に入ることを許されないものです。あくまで、構造物に対する限界を示したものです。

<回答>
 ご指摘の部分は「付録A-用語解説」の検索用語として記載したものです。下記に示す「付録A-用語解説 3」をご覧ください。

「3 車両限界と建築限界
トンネル、橋梁、建築物(駅のホームなど)に曲線でも車両が接触しないように、高さ・幅・床下機器下高さなどの車両側の構造物に対して定めた限界を車両限界、また、線路上の構造物側に対して定めた限界を建築限界という。建築限界断面は車両限界断面より大きくし、余裕を見込む。」

 しかし、当該部記述は読者に誤解を与える可能性がありますので、次回の版から下記の様に変更します。
「車両の外形形状および寸法は車両限界(付録A―用語解説 車両限界と建築限界●3を参照)を越えないように・・・」(注:「車両限界と建築限界」は太字、●3は上付き文字です)

●p.32
 軽量ステンレス車両の説明は、他の書籍でも有限要素法による解析の成果が強調されていますが、読者が知りたいことは、以下の点にあるように思います。
①軽量ステンレス車両は、それ以前のステンレス車両に比較して、どの程度の軽量化が実現したのか?
②構造のどこを見直すことで軽量化を実現したのか?
③アルミ車両と軽量ステンレス車両の重量差?
 これについては、名古屋市交通局のN3000形(6両編成3M3T)に、アルミ車両(日立製、総自重180.6t)とステンレス車両(日車製、総自重196.9t)があり、1両当りアルミ車両が2.7t軽くなっています。一般的に軽量ステンレス車両といえどもアルミ車両とは、この程度の差があるとの認識でよろしいでしょうか?

<回答>
①従来のオールステンレス車両に対し軽量ステンレス車両の構体重量は約1.8トン軽量化されました。
②軽量化の基本は部材の点数削減と板厚の薄肉化です。
図1.35のオールステンレス車両と図1.37の軽量ステンレス車両とでは外板形状をコルゲーション外板から、より平滑なビード出し外板に変更することにより、構体構造がより張殻構造化され軽量化が進化しました。
③アルミ車両と軽量ステンレス車両の重量差?
著者は名古屋市交通局のN3000形のアルミ車両とステンレス車両に付きまして、その構造の仕様差に付いての知見を持っておりません。もし、構体以外の仕様・構造が同一であるとすればお考えの通りで良いと思います。

●p.37
 「1999年の日刊工業新聞によると・・・ステンレス鋼ダブルスキンパネルによる試作構体」とありますが、それから16年経過、現時点でのステンレスダブルスキン構造は、「1.5.2ダブルスキン構造定着の条件」に記載されている状況に留まっているのでしょうか?

<回答>
 ステンレス鋼ダブルスキン構造の現状は試作車両の完成のみで、残念ながら現時点でも量産化は実現して居りません。量産化されるためにはダブルスキンパネルが許容コスト以内で生産される技術・生産システム・生産体制の確立が必要ですが、これは鉄道業界のみの実力では実現出来ず、各種産業界全体の必然性と合致した時に可能に成ると考えています。